自己肯定感の上げ方とナルシシズムとの違い――本当の「自分を好きになる」とは?
はじめに
「もっと自分に自信を持ちたい」「自己肯定感を高めたい」こうした思いを抱えている人は、現代社会において少なくありません。SNSや比較文化の中で、「他人と比べて自分は劣っているのではないか」と感じることも多く、自己否定に悩む人が増えています。
一方で、自己肯定感を高めることを追い求める過程で、「それってナルシシズム(自己愛)なんじゃないの?」と不安になる人もいるでしょう。自分を大切にすることと、過剰な自己愛の境界はどこにあるのでしょうか?
この記事では、自己肯定感とは何か、どのようにして高めていくのか、そしてナルシシズムとの違いは何かについて詳しく解説します。
自己肯定感とは?
自己肯定感とは、「ありのままの自分を肯定できる感覚」のことを指します。失敗しても、弱さがあっても、「自分には価値がある」と思える感覚です。
心理学者のナサニエル・ブランデンは、自己肯定感を次のように定義しています:
「自分は生きるに値する人間であるという、根源的な信念」
つまり、自己肯定感は、成果や評価に依存しない「自分そのものへの信頼感」なのです。
自己肯定感の高い人の特徴
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失敗しても自分を責めすぎない
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他人と自分を無理に比べない
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助けを求めることに抵抗がない
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他人の成功を素直に喜べる
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自己改善に前向き
自己肯定感の低い人の特徴
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失敗を極端に恐れる
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他人からの評価に敏感
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自分を常に責める
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他人の目が気になりすぎる
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「自分には価値がない」と思い込む傾向がある
ナルシシズム(自己愛性)との違い
一見すると、自己肯定感が高い人とナルシストの言動は似ているように見えることがあります。しかし、その内面は全く異なります。
項目 | 自己肯定感が高い人 | ナルシスト(自己愛性) |
---|---|---|
自己評価の根拠 | 内面・存在そのもの | 外的評価・優越感 |
他人への態度 | 思いやり・共感がある | 支配的・軽視する傾向 |
自己開示 | 弱みを見せることもできる | 弱みを隠す、見せない |
自信のタイプ | 静かで安定した自信 | 誇示的で不安定な自信 |
他人との関係 | 対等な関係を築く | 上下関係を作りがち |
ナルシシズムは、実は自己肯定感の低さを覆い隠すための防衛反応である場合もあります。彼らは「自分には価値がある」と思いたいために、過剰に自分を誇示し、他人の評価を強く求めるのです。
自己肯定感を高める5つの方法
それでは、自己肯定感をどうやって高めていけばよいのでしょうか。ここでは、実践しやすい方法を5つご紹介します。
1. 自分の「感情」に気づく習慣をつける
私たちはしばしば、感情を無視したり抑えたりしてしまいます。「こんなことで落ち込んじゃいけない」と自分を責めるのではなく、「今、自分はこう感じている」と受け止めることが第一歩です。
ワーク:
毎日3分、自分の感情を書き出してみましょう。ジャーナリング(日記)がおすすめです。
2. 小さな成功体験を積み重ねる
自己肯定感は、「やればできた」という実感を通して徐々に育っていきます。いきなり大きなことをやろうとせず、「朝起きてベッドを整える」「1ページだけ読書する」など、小さな達成感を意識的に感じることが大切です。
3. 「~でなければならない」思考を手放す
「成功しなければ価値がない」「人に好かれなければならない」などの固定観念が、自己肯定感を下げる大きな原因になります。
リフレーミングの例:
「失敗しても、自分には学びの価値がある」
「人に嫌われても、自分の価値は変わらない」
4. 自分の価値観を明確にする
他人の価値観ではなく、自分が本当に大切にしたいものを見つけることは、自己肯定感を高める鍵です。
ワーク:
「あなたが人生で大切にしたい10のこと」を書き出し、優先順位をつけてみましょう。
5. 他人と比べない「比較から感謝」へ
比較は自己否定の温床です。SNSを見て落ち込むときは、「自分には何があるか」「今日感謝できることは何か」に意識を向けてみましょう。
感謝ジャーナル:
寝る前に「今日感謝できたことを3つ」書く習慣は、幸福度を上げ、自己肯定感を育む効果が科学的にも示されています。
自己肯定感は「育てるもの」
自己肯定感は「一夜にして高まる」ものではなく、時間をかけて丁寧に育てていく感覚に近いものです。大切なのは、「今の自分を否定せず、受け入れること」からスタートすること。
また、自己肯定感が高まると、不安や怒りに振り回されにくくなり、人間関係も穏やかになります。他人の意見を必要以上に気にせず、「自分の心に正直に生きる」力が備わっていくのです。
おわりに:真の「自分を好きになる」とは?
自分を好きになることは、決して「自分が他人より優れている」と思うことではありません。ありのままの自分を認め、欠点や弱さも含めて「それでも自分には価値がある」と信じられることです。
それは、静かで、強く、そして温かい心の在り方です。
ナルシシズムが「他人に勝つこと」で自己価値を証明しようとするのに対し、自己肯定感は「他人と違っていても大丈夫」と思える安心感を育みます。
自己肯定感を育てることは、自分自身との関係を深め、人生をより豊かにする第一歩です。今日からできることを一つずつ始めてみましょう。
参考文献・おすすめ書籍
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『自己肯定感の教科書』中島輝(SBクリエイティブ)
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『嫌われる勇気』岸見一郎、古賀史健(ダイヤモンド社)
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Nathaniel Branden, The Six Pillars of Self-Esteem
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Kristin Neff, Self-Compassion